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もうひとつ、未発表の小説がありました。

共同出版の話もあったけれど、

ひとつ共同出版を世に出したところだったので、

経済的にあきらめた作品です。

(最終の推敲は行っていません)

***********************

プロローグ

 「五体不満足で良かったことってありますか?」

 私はその答えを、言葉は不適切かもしれないが、ワクワクして待った。

 それは数年前、乙武さんが車の免許を取得するまでのドキュメンタリー番組の一場面。あれだけの重度の障害を持ちながら、その境遇に負けることなく、周りから愛されている彼が、どんな答えを出すのか。

 私も、他の人にあって自分にだけないものがある。普段の生活にはさして支障はない。けれど障害を持つと、そのおかげで出来ないことが色々あるのも確かだ。ただ私は、それを障害の所為にはしたくないから他の方法でクリアさせたりする。それでも出来ない時は「ただ努力が足りないだけ」そう思うことにしている。そうでもしないと、すべてのことから簡単に逃げることができてしまうからだ。人はそれを『頑張り屋さん』と呼ぶ。普通の人ができることを、普通にするだけでそう思われる。ラッキーといえばラッキーだ。

話がそれてしまったが、それで乙武さんは何と答えたか―――。

「ん―――、いろんな人と沢山会えたことかな」

 実はこの答えには、少々がっかりした。「同じなんだ」と思えたから。確かに障害を持ちながら何かを達成し、それを取り上げられると、いろんな意味で人に会える。普通ならなかなか会えない人にだって会えてしまう。けれどそれは別に障害を待っていなくても会える可能性はあるわけで、それであれば、障害なんて持っていないほうが良いに決まっている。

私はふたつ目の質問の答えが、正直な気持ちなんだろうなと思った。

「じゃぁ、嫌だったことは?」

「沢山あるよ」

 それで、私は卑屈になっているかって?どうやらそうではないらしい。なぜだか人が驚くくらいノー天気に生きている。ズバリ、

『人生は、楽しむためにある』

である。 

 そこで私は何を血迷ったか、自分を主人公にした物語を書いてみた。そうすれば、私は女優にだってなれる。しかも主役として―――。

 こんなところにまで、ノー天気さを出してしまう私は、一体何者なんだろうか?

  『指』

 石畳の街。

レンガ造りの家。

車の来ない細い交差点。

そのかどにあるアクセサリー店。

 毎日そこを通るたび思っていた。今日こそ ―――。

「こんにちは―――」

 声とも息ともつかない挨拶をしながら、私はそっとドアを開けた。

――― チリーン ―――

音を立てずに入ろうとした私の頭上で意図も簡単に音を立てたそれは、驚いて振り向いた私を馬鹿にしたかのように、ぱったりと静かになった。気を取り直し店の中を窺うと目に入ったのは、

木の壁

木の床

木枠の窓

木の机

木でできたカウンター

外のレンガ造りから想像もできない内装。

そしてこじんまりとしたスペースに手作りのアクセサリーが行儀よく並んでいた。

――― 誰もいないの? ―――

なぜかこそこそとしながら、並ぶアクセサリーの前に立った。猫のブローチ、蝶のネックレス、木の葉のチョーカー。素材のことはよくわからないが、その技が、素材からではない輝きを見せていた。

「うわぁー」

 私は無意識に出したため息まじりの自分の声に驚き、長めの袖で隠れた両手であわてて口を塞いだ。なおも出てこない店の主人。私は再び店の中を窺った。

――― 奥に誰かいる ―――

別に悪い事をしているわけでもないのに、身をかがめソロソロと店の奥の入り口へと近づいていった。すると奥の部屋から機械で何かを削るような音が聞こえてくる。私はいつしか、興味本位で奥へと入っていった。

部屋を覗くと、男の人がこちらに背を向け、明るい窓際にある木製の机に向かって何かしら作業をしているようだった。機械の音はそこから聞こえた、私はゆっくりと近づき、そっと彼の肩口からその手元を覗き込んだ。

「うわぁ、素敵!」

 突然の私の声に彼は飛び上がって驚き、「イタッ」と一声上げ、持っていたものを放り投げるように手から離した。

「大変!」

とんでもない事をした事に気付き、私は机の横へ回り込んだ。すると彼は、心配する私をよそに「いらっしゃいませ」と、指をくわえたまま優しく微笑んだ。私は少々拍子抜けしながらも、ただただ謝るしかなかった。

「ごめんなさい。指 ―――。私が突然大きな声なんか出すから ―――。ごめんなさい」

 何度も謝る私に「大丈夫。心配しないで」と変わらない笑みを投げかけ、「どうってことないよ。いつものことだから」と絆創膏で軽く処置をした。その直後、彼は突然「あーっ!」っと声を上げ、あわてて机の上へ目をやった。そしてその上で無造作に転がる親指大ほどの物を取り上げると、念入りに様子を窺い始めた。それは銀色に輝く女神の姿だった。冷たい金属でできているにもかかわらず、それはとても温かく見えた。優しい表情の中にある力強い目は後方の弱者を見つめ、高いところを差した指は、それら迷えるもの全てを導いてくれる。それはまるでゆるぎない道しるべ。私にはそう見えた。

「素敵―――」

『指』②                  

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