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無題⑦

久しぶりに続きよ~ん。 

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 そう口にした瞬間、そこにいるはずのない男が俺を睨み大声を上げた。
「何を見ている?あぁ?仁。俺が酒を飲んで何が悪い!何が悪いってんだ!!」
 俺は迫り来る恐怖に耳を塞ぎしゃがみ込んだ。
「ちょっ、ちょっと、大丈夫?ねえ、仁」
 どのくらいの間だろうか。河崎浩子は目を閉じ小さくなったまま動かない俺の名を呼び肩を揺らし続けていた。
「あ。だ、大丈夫。大丈夫だから。ごめん」
 ふと我に返った俺には一体何が起こったのか理解できていなかった。
「どうしたの?急に」
「分からない。何かを見た気がするんだけど」
 そう言いながらあたりを見渡し、めまいを感じた。
「ねえ?大丈夫?仁?仁!!」
 心配そうに叫ぶ彼女の顔がかすんでいくのが分かった。代わりにさっきと同じ男の声が頭の中をガンガンと響き渡った。
「酒だ!おい、仁。酒はないのか?」
「俺が酒を飲んで何が悪い?」
「何だその目は」
「酒買って来い!」
「ごめんなさいお父さん」
「僕いい子でいるから」
「ぶたないで」
「いたいよ」
「いい子でいるから」
「ごめんなさい」
「仁・・・お前・・・よくも・・・」
「ああ・・・助けてくれ・・・仁」
「と、父さん?」
「ぼ、僕?僕がやったの?」
「僕が、お父さん・・・死んじゃったの?」
「僕が?僕が?僕・・・僕じゃない。僕じゃない・・・」

 気がつくと俺は仰向けに倒れ呆然と天井を見つめていた。
「ああ。仁。よかった」
 俺のすぐ横で河崎浩子は今にも泣き出しそうな顔をしてこちらを見ていた。その手は俺の右手を握り締めて。
「ごめん。もう大丈夫だから」そう言って俺は上体を起こした。
「大丈夫じゃないわ。まだ顔色も悪いし。一体どうしたの?」
 その言葉に先ほどの声を思い出し、気分が悪くなった。思い出す一言一言に、忘れ去られていた記憶が映像となって呼び起こされる。
「ああ。俺が殺したんだ・・・」
 気が付けば呟いていた。
「え?何?」
 俺は断片的に思い出したことを話し出していた。ポツリポツリと小さな声で。そうすることで冷静さを保たせようとしていたのだ。
「俺は大酒のみの親父に虐待を受けていた。何か気に入らないことがあると全部俺のせいにして叩くんだ。俺は、俺がいい子じゃないから父親がこうなってしまった。こうなったのは俺のせいだと思い、ただただ耐えるしかなかったんだ。けど・・・けど・・・」
 俺は涙を流し話し続けていた。まるで独り言のように。それを河崎浩子はただ黙って聞いていた。
「あの日もいつのものように父親は酒を飲み酔っていた。だた、俺はなぜかいつもと違っていた。もう痛いのはイヤだ。そう思っていた。だからあの時、父親が酔って俺を叩こうとした時、俺は突き飛ばしたんだ。力いっぱい父親を付き飛ばしたんだ。そしたら、そしたら・・ああ」
 俺は両手で顔を隠し泣いた。
「そしたら・・・そしたら・・・」
 その先が言えなかった。幼子のように泣く俺を、河崎浩子は優しく包み込んだ。俺は母親にすがるようにしばらく泣き続けた。
 そして気が落ち着くと、俺に突き飛ばされた父親がどうなったか再び話した。
「ふらふらよろけながら、そのまま後ろに・・・、あのシンクにぶつかったんだ。そうしたら、突然父親は顔色を変え、目尻を吊り上げ、俺を睨みつけたかと思うと、そのまま前のめりに倒れた。その背中に包丁を突き立てて・・・」

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