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ヴォイス(小説部企画作品 )

タイトルどおり、
ブログ小説部『企画発信室』で以前に作った同人誌(非売品)に掲載した作品です。
なんとなくUPしてみました(汗)

<ヴォイス>    
      *この作品はポルノグラフィティさんの楽曲『ヴォイス』より連想したものです。

 高熱で寝込み、ようやく熱が下がった朝、僕は真っ暗な世界に閉じこめられた。

 最初は何が起こったのか、まったくわからなかった。自分がどこにいるのか、上を向いているのか下を向いているのか、起きているのか眠っているのか、それすら分からなかった。気が付けば僕の異変に気づいた母が、訳も分からず取り乱している僕を懸命に抱きしめてくれていた。

 この日僕は、突然視力を失った。それは中学を卒業してすぐのことだった。

 何度か手術をして、少しでも視力を取り戻そうと必死に闘ったが、僕の視力は二度と戻ることはなかった。長い入院生活。日常生活の簡単なことが自分でできるよう訓練する日々。最初は立つことすらできなかった。食事も排泄も何もひとりでできず、見えないことへの不安と、屈辱的な日々。誰にも会いたくなかった。

 高校へ入学し、新しく始まった生活を話しに来る友人たち。強がって笑って見せたが、内心うっとうしかった。

 一人で身の回りのことができるようになると「誰にも会いたくない」という気持ちが一層強くなった。一瞬にして何もかもなくし、暗闇に取り残されたこの気持ち、誰にも理解できるわけがない。

 見えなくなると音に敏感になる。とりわけ声には―――。

 

笑い声は 僕をあざ笑う声に

 泣き声は 僕を哀れむ声に

 怒り声は 僕を小さくさせ

 単なる話し声は 僕を一人にさせた

 光とともに失ったのは僕自身。何のためにここにいるのか。全てを失うために生まれてきたのか。僕は誰?自暴自棄になっていた。すべてが無くなってしまってもいいと思った。

 そして一年がすぎ、僕は盲学校へ通うことになった。

「こんな学校に通うはずじゃあなかった」

 この思いは、僕をより惨めにさせた。

 学校には、思ったよりたくさんの生徒がいた。僕を含め八人の新入生の周りには、自然と人が集まり、競っていろんなことを教えてくれる。手探りと感覚と勘で、校内のことを覚えて行く日々。そこには先輩も後輩もなく、そして何より、僕の目が見えるとか見えないとかまったく関係のない不思議な世界。けれど全てをどこかに置き去りにしてきた僕の心では、何もかも無意味に感じた。それでも僕の意思に関係なく、時は流れてゆく。

 視力障害者のために作られた学校だったが、見ることに頼って生きてきた僕には、日々苦労の連続だった。何をやってもうまくできず、いつも、何をやるにも最後。夏を過ぎる頃にはほとんどの新入生は学校の隅々まで一人で歩けるようになっていた。僕はといえば、未だトイレすら一人で行けやしない。そんな僕に入学当初から仲良くしてくれたクラスメイトがいた。彼は僕の思っていることが分かるかのごとく、手を貸してくれる。彼曰く、不思議と気が合うらしい。

「あせっちゃダメだよ。きっとできるようになるから」

 いつも明るく声をかけてくれる。なのに、いつまでも何も一人でできない僕。情けなかった。その情けなさが苛立ちに変わり何もかもうっとうしく感じる。彼はそれすらも感じ取っていたのだろう。ある日の下校時、いつものように二人で校舎を出ると、黙っている僕に声彼がをかけた。

「どうかしたの?近ごろ何だか変だよ」

「突然目が見えなくなった僕の気持ちなんか、誰にも分かるはずがない」

 僕はずっと秘めていた心の叫びを思わず吐き出してしまった。

「―――そうだね」

 彼は否定することなく、そしてこう続けた。

「だけど君は、生まれながらにして何も見えない人の気持ちが分かるかい?」

 ハッとした。生まれつきなら何の不自由もない。それがあたりまえなのだから―――。

そう思って接してきた。けれど、本当にそうなのだろうか?突然のことで戸惑ってはいるけど、触れれば大体の形は想像できる。色だって分かる。けれど今僕の隣にいる彼は、その全てを知らない。まことの闇。本当に分かっていなかったのは僕?

 そのとき僕の頬に冷たいものが舞い降りてきた。

「雪―――」

「僕は雪が好きだ。見たことはないけれど、話を聞いたことがある。一片の汚れもない白。見渡す限りの銀世界。一度でいいから見てみたい―――」

彼は両手の手のひらに雪を感じながら、見えない目で空を見ていた。もちろんその姿は僕に見えてはいないけれど分かる。感じる。僕は失っていた自分を、かすかに感じた。冷たいはずの雪が、なぜか違うものに感じた。それは雪よりももっと白く、もっとやわらかく、そして温かかった。この気持ちはきっと、天使からの贈り物。目は見えなくなったけれど、代わりに何かを感じる。

今まで見ようとしなかったものを、見ようとした瞬間だった。

                                                                 

                 終

目次へGO!!

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