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「シスター」小説部企画作品

企画第一弾

~ポルノグラフィティさんの楽曲からイメージして小説をつくっちゃえ~。
第3号。
今回は「シスター」です。
すごく悩みました。いろんな意味で。まだ悩み続けている作品です。

『シスター』

(本編)

 MIKI 。
 君は本当にあの時のテロに巻き込まれて死んでしまったのかい?
 僕らが結婚式を挙げる予定だった教会へひとつの区切りをつけるために来ることになるとは・・・。
 大勢の人が黒い服に身を包み、うな垂れた頭で参列する。神父が祈りをささげると、皆声を殺して泣いていた。
 子どもが、親が、恋人が、友人が・・・。たくさんの命が一瞬にして散ったあの場所に、本当に MIKI はいたのだろうか?いまだに信じられないでいるのは、あの場所に MIKI の存在した軌跡がないから。MIKIだけじゃない。一緒にいたはずの MIKI の両親と弟の存在も確認できていない。ただあるのは、『消えた』という現実だけ。

            *

 昨夜からつけっぱなしのテレビが、ベッドの上の僕に騒々しく何かを叫んでいた。僕は寝ぼけたまま無意識にリモコンを手にすると、チャンネルを変えていた。
 どこも同じ内容の報道番組しかやっていないことに気付いたのは、全てのチャンネルを押し終えたてからだった。
 「事故か?」
 かなり大きな列車事故のようだったが、別にどうでもよく、まだ半分眠ったままの頭をかきむしりながら、僕はテレビを消した。
 ようやく上体を起こしおもいっきり伸びをすると、時間を確かめるべく携帯電話を取ろうとした。
 (・・・ない・・・)
 いつもの充電器の上にない。僕はベッドから飛び降りた。
 「こんなに便利な物はない」と常々思っていたものが、いつもの場所にないというだけで、とても不便なものに変わる。
「あっ」
 テーブルの上のあるそれを発見した僕は、矛盾したその存在を鼻で笑いながらそっと手にした。2通のメールを受信している。見ると、ふたつとも MIKI からの短いメッセージ。
「今から帰るね」
「着いたら連絡する」
 そうだった。MIKI は家族旅行を終え、今日帰ってくる。一泊二日の温泉旅行。とても仲の良い MIKI の家族は、年に1~2度は必ず皆で旅行へ出かけていた。ただ今回は特別だった。感謝の意を込めて、MIKIが招待したもの。あと数日で僕の妻となるその前に、娘としての最後のプレゼント。
「来年からは SHUJI も一緒ね」
 そう言って MIKI は出かけた。
 僕は、メール受信の時間を確かめた。
 9:23。
今の時間は、13:08。そろそろ着く頃だろうか。
 ( いや。あの家族のことだ。着いたとしてもしばらく一緒にいるだろう )
 そう高をくくり、MIKI からの連絡を待つことにした。
 けれど、いくら待っても再び僕に MIKI からの連絡が入ることはなかった。
 その日、夜になっても連絡ひとつこないことに
「なぜ?」
 という疑問だけを投げかけ、他は何も考えないことにしながら、何度も MIKI の携帯に電話をかけていた。
「コノ電話ハ、現在電源ガキレテイルカ・・・」
 同じ声の同じ返事が、毎回返ってきた。MIKI の自宅の方にも電話をかけた。
「ただ今留守にしております。ピーっと鳴ったら・・・」
 ここでも同じ声の同じ返事が返るだけだった。 「なぜ?」が「心配」に変わり「苛立ち」さえ覚えながら、いつしか「不安」という文字に変わってゆく。 夜の静けさから逃れるためテレビをつけると、特別報道番組がいまだ続いていた。しかしそれは昼間のそれとは違っていた。「事故」から「テロ」という文字に変わり、「生存者なし」や「絶望的」というテロップが、僕の心をざわつかせた。
「遺体の収容は、ほとんど不可能・・・」
 専門家や、大学の教授やらが現在の状況など真剣な表情で語っていた。それが心のざわつきを一層大きくした。
 やがて、再現CG映像が解説付きで流れ始める。
 時速200キロ以上で走る列車が、後方車両から順に爆発し、制御不能の状態で、火の塊となってなお走り続け、海を渡る大橋の上で大爆発を起こす。先頭車両の一部が前方に吹き飛ばされ、その他の車両は海へと散っていった。吹き飛ばされた車両の一部は、火を噴きながらそのまま橋を渡り終え、差しかかったカーブを曲がりきれず脱線し、木々をなぎ倒し止った。そこから始まった山火事は今だ鎮火していない。一方、橋の下の海流は速く、バラバラになった車両は、あっという間に海に飲み込まれていった。
 僕はざわついた心を無理やり押さえつけ、携帯に目を向けると、もう2時をまわっていた。
「寝なきゃ・・・」
 僕はテレビを消し、何も考えず眠りに着いた。

 目を覚ましたのは3時間後。いや、気が付けばその時間に、2人分の朝食をテーブルに並べ、目の前の誰も座っていない椅子を見つめ、僕はただ夜明けを待っていた。
 時間になると僕はテーブルの上を片付け、会社に行く準備をし、家を出た。
 職場は、大騒ぎだった。何人もの同僚やその家族がテロの犠牲になっているようだった。けれど僕は気にも留めず黙々と仕事を、いつものように、ただいつものように・・・。
 何人もの人が僕に話しかけてきたような気がしたが、何を話したのか覚えてはいない。僕は仕事をやりに来たんだ。そう仕事をやりに。
 自分のデスクに向かいパソコンの画面を見ている僕の時間は、まるで止っているかのようにゆっくり流れているのに、まわりはとんでもないスピードで回っていた。
 「僕は何をしてるんだろう・・・」
 なぜだか涙がこぼれそうになったので、考えるのをやめた。何もしないうちに、いつの間にか夜になっていた。パソコンは朝のまま、起動されてはいない。
「帰らなきゃぁ」
 ぽつりとつぶやき、帰る支度を終え、まるで早送りのように動き回る社員の横を歩き出した。
「おい、大丈夫か?送っていこうか?」
 誰かが声をかけてくれたが、返事もせず会社を後にした。

 家に着いても、誰もいなかった。真っ暗な部屋、静かな空間。僕は中に入ることなく、開いた玄関の扉をそのまま閉め、近所のスーパーに買い物に出かけた。
 店の入り口付近で、暇な店員と顔なじみらしい主婦が話し込んでいる。何を話しているかすぐに想像がつき、僕は足早に店内へ入った。
 食品売り場で、インスタントのパスタがふと目に入った。そういえば MIKI が朝食にパスタを作ってくれたことが、一度だけある。ただの一度だけ・・・。

 あの日は、一日中外回りの予定だった。そんな僕のことを考えてか、「バテないように」と作ってくれた、ガーリックトマトパスタ。
「外回りだよ、ガーリックなんて食べれない」
 ぼくは当たり前のことを言った。MIKI は「気が付かなかった。ごめん。」と、バツが悪そうに舌を出した。僕は結局、一口も食べずに家を出たっけ。

 そんなことを思い出しながら、ひと通りの食料を買い店を出ると、さっきの二人はもういなかった。 まっすぐ家に向かい玄関の前に立った僕は、つきかけたため息をのみ込み、今度は中に入った。
 家中の灯りをつけ荷物を置いた後、テレビをつけてみる。通常の番組に戻り、そこからの笑い声が、静けさを消してくれた。僕は、あの時食べることのなかったインスタントのガーリックトマトのパスタを、テレビを見ながら口にした。
・・・MIKI はあの日、何時に起きて作ってくれたのだろう。もちろんインスタントではないパスタを・・・。僕が出かけた後、こうして一人で食べたのだろうか?
 そんなことを考えながら、テレビから聞こえる笑い声と同じタイミングで笑い、なぜだかあふれ出る涙は無視し、パスタを詰まらせながらひたすら食べ続けた。
 皿が空になると、さっさとそれを片付け、シャワーを浴び、夜の静けさに耐えられなくなる前にベッドに入る。そしていつものように携帯で時間を確かめ・・・、いや、確かめたのはそれだけじゃないかもしれない。少しの期待を裏切られながら、眠るためだけの夜を早く終わらせる、ただそれだけのために、僕は目を閉じた。           

 そして僕はこの一年間、何をして、どう生きてきたのかまったく記憶にない。いつもと変わりない生活を送ってきたつもりだ。きちんと食事も取り、部屋の掃除も怠らず、それまでと変わりなく会社にも通っていたようだ。ただ、朝は夜が空ける前に起き、必ず2人分の朝食を作り、出勤のぎりぎりまで待っていた。MIKI が消えたという現実は現実として置き去りにしたまま、ただひたすら待っていた。何を待っていたのか。
 MIKI が現れるのを?
 MIKI がいなくなった理由を?
 MIKI を忘れてしまうことを?
 僕がこの世から消えてしまうのを?
それを知るために、ここへ来た。MIKI との新たな1ページが始まるはずだったこの教会へ・・・。
 神父が、亡くなった人々と残された人々のために祈りを捧げる。僕はその間中、窓から見える海をただ呆然と眺め続けた。
 祈りが終わると人々は外へ出て、海岸に向った。僕もそれに続き外へ出たその瞬間、真っ白な世界にひとりとり残されたような錯覚を受けるほどの陽の光を浴び、目を伏せ立ち止まった。そこへ突如現れた人影が、僕を孤独から救い出す。
「MIKI ?」
 顔を見ようとしたが、逆光でよく見えない。
「どうかしましたか?」
 そう言いながら手をさしのべてくれたのは、この教会のシスターのひとりだった。僕に一輪の白い花を手渡し、
「一番の思い出をこの花に。そして安らかに眠れますように・・・アーメン」
 そういった後、彼女は白い指で十字を切り祈りを捧げ、そのまま去っていった。周りを見ると人々は、手にした花にそれぞれの思いを語っていた。
「あなたは、私たち夫婦の誇りだったわ・・・」
「君のことは忘れない・・・」
「あの時は楽しかったね・・・」
「どうか安らかに眠っておくれ・・・」
 そう言って、それぞれに白い花を波間に浮かべてゆく。数え切れないほどの花が、さざ波に揺られながらゆっくりと離れてゆくのを皆じっと見送った。ときには笑顔でときには涙で。
 僕はこの花に、一体何を語りかければいいのだろう。想いを巡らせ花を水に浮かべたまま、手を離すことができずにいた。それはこの花を離してしまったら、僕には MIKI が消えたという現実しか残らなくなってしまいそうだったから。
 その時、教会からの鐘の音が優しく鳴り響いた。その波動は冷えた心を少しだけ暖めてくれた。
「会いたい」そう想いながら僕は、そっと花から手を離した。波に見え隠れしながら少しずつ遠ざかり見えなくなりつつあるその花を、僕の目はずっと追い続けていた。
 やがて海岸から、ひとりまたひとりと去ってゆく。
この想いは MIKI に届くのだろうか?果てしない海を渡り、いつか MKMI に・・・。
 僕は海に飲み込まれてゆく太陽を見つめ、こぼれる涙を拭おうともせず、そう思いながらひとりたたずんでいた。

                     *

 MIKI 。
君は本当にあの列車に乗っていたのかい?

                     *

そして今日も夜明けをじっと待っている。
眠るためだけの夜を早急に終わらせ、
MIKI の帰りをただひたすら待っている。

                               

                     *

                     *

                     *  

人が人の命を奪う。こんな馬鹿げたことが今もなお繰り返されているのは一体なぜなのだろう。一体どれだけの人が涙を流せば、皆それに気付くのだろう・・・。

             

                             (完)

目次へGO!!

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コメント

いよいよ、第3号始動ですね!
楽しみが増えました♪

投稿: のぐのぐ | 2006年3月22日 (水) 18時29分

**のぐのぐさんへ**
早速の訪問、ありがとうございます。
自分の能力以上のものを手がけてしまいました。
部活ならではのチャレンジです。
楽しめるよう努力しますね。

投稿: のぐのぐさんへ | 2006年3月22日 (水) 20時00分

さすが、プロ早い!もう3作目。「シスター」アタクシ的には、どんな風にでも膨らませられる、広がっていける感がある。(とは言え、アタクシには無理なお話)。
面白くなってく予感っすね!更新楽しみにしてるぜぃ~★

投稿: 羽音 | 2006年3月23日 (木) 14時09分

**ネエさんへ**
その膨らませ感・広がり感をこっそり教えてください。

投稿: ネエさんへ | 2006年3月23日 (木) 16時32分

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