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ずっと君の傍に

 いつも、ちょっとしたことで涙を流していた君が ―――。

 僕が永遠の旅立ちを迎えたあの日だけは、

最後まで笑っていた。

 命が尽きるその瞬間、

僕の心は君の笑顔を離さなかった。

 遠ざかる世界を眺め、旅立った。

二人で笑いながら。

いつまでも笑いながら―――。

 あの日からずっと、

君の笑顔は僕の傍にいる。

 僕の身体は荼毘にふされ、

今はもうどこにもない。

ただこの気持ちだけが、

君の笑顔と共にここにいる。

――― 返さなければ ―――

そう思ったのは、

この世界から君の世界を覗き込んだ時。

悲しみに暮れる、

君の姿を見てしまったから。

 君の笑顔は、

身体を失った僕をこの世界に留まらせる

唯一の存在。

 笑顔を返してしまった時、

僕は本当に一人になってしまう ―――

        *

        *

 君との出逢い。

それは本当に偶然だった。

 街には毎日、数え切れないほどの人の波。

きっと同じ人が同じ時間、

同じ目的地に向かっている。

そんなオフィス街。

 「すみません。お待たせしました」

 待ち合わせの場所にいた制服姿のOLに、

僕は声を掛けた。

 「あっ、あの―――」

 彼女は何か言いたげだったが、

あまり時間のない僕は、

彼女を職場の応接室に連れて行くという片付け仕事を

早急に終わらせたかった。

 「あっ、僕は―――」

 名刺を差し出し、

上司の代わりに迎えに来たことを告げると、

案内をしようと歩き出した。

 「あのー。人違いです」

 「えっ?」

 僕は言葉を失った。

頭の中が真っ白になる代わりに、

顔が真っ赤になるのを感じた。

 「すっ、すみません!!」

 謝るしかなかった。

彼女は 「クスッ」 っと笑って

ひとこと言った。

 「同じ会社に勤めているんですね」

 「ハッ」 っとした。

よく見ると、彼女が来ている制服は

とても見慣れたものだった。

顔はますます赤くなり、

冷たい汗が流れ落ちる。

 彼女は待ち合わせていた同僚と、

ランチに出かけて行った。

 僕はただ、呆然と立ち尽くした。

そこに突然携帯電話の着信音が

鳴り響いた。

 ――― 上司からだ ―――

 「すまん。今日の会議、延期になった」

 ――― もっと早く言えよ ―――

 「あっ、はい。わかりました」

 これが彼女と初めて会った日の、

いやな思い出。

けれどこれがきっかけで、

僕と彼女は親密になった。

       *

       *

 社内恋愛厳禁の職場は、

毎日スリルあふれる楽しいことの連続だった。

 デートの場所も近隣は避けざるおえなかった。

待ち合わせ場所はいつも

遠く離れた場所を探して、メールで約束をしていた。

 ――― 次の休み、映画行こう ―――

 ――― 行く行く!どこの映画館にする? ―――

 ――― ○○県××市 ―――

 ――― えーっ!遠いね。何か面白いところでもあるの? ―――

 ――― ない。なんとなく ―――

 大変だったけど、それなりに楽しんでいた。

 お互いの家になんて、行けやしない。

理由は簡単。

彼女の父親が、同じ会社にいて、

僕は、会社近くのマンション暮らし。

 ある日、

いつものように待ち合わせ場所に行くと、

彼女は目を真っ赤にして泣いていた。

 「どうしたの?」

 「ん?あっ、ごめん」

 彼女はイヤフォンをはずし、

何事もなかったかのように微笑んだ。

「泣いてたの?」

「あははっ。この曲聞いてたら、

この前の映画思い出しちゃって」

あっけらかんと言った。

 彼女は、本当に涙もろかった。

泣き虫でなく、もろい。

ちょっとしたことでも、すぐスイッチが入るようだ。

その半面、彼女はいつも笑っていた。

そして、温かかった。

傍にいるだけで、

僕が幸せになれた。

 彼女に出会えてから、

僕の人生は変わった。

毎日が楽しく、本当に幸せだった。

 けれど、そんな日々は長く続かなかった。

       *

       *

 あの日、

いつものように目と鼻の先にある職場に向かう途中、

僕は事故に巻き込まれた。

人の終わりとは、

こんなに突然にやってくるものなのか?

 気が付けば僕は、

病院のベッドの上に横たわっていた。

 「おい!しっかりしろ!死ぬなぁ!!」

 そこには、もう何年も会っていない父親がいた。

母親はただ泣いていた。

その後ろ、入り口近くで静かに立っている彼女を見つけた。

僕は振り絞って、声にならない声で彼女の名を呼んだ。

何の説明がなくても、両親にはわかっていた。

彼女が僕にとって、大切な存在であることを。

 彼女は僕の傍まで来ると、

包帯で巻かれた僕の頭をそっとなで、

優しく微笑みかけた。

涙もろい彼女が微笑んでいる。

それだけで僕は安心できた。

 静かな病室。

自分の呼吸が止るのを感じた。

サヨナラだ。

僕の意識のかけらが、

そっと微笑んでいる彼女を抱くと、

身体が軽くなるのを感じた。

ものすごいスピードで、

僕が僕から遠ざかってゆく。

―――。

 そして今、僕はここにいる。

彼女の笑顔と共に、ここにいる。

 遠い空の彼方。

 あの日、僕が永遠の眠りにつくと、

彼女はそのまま意識を失った。

そしてしばらくして目を覚まし、とたんに泣き崩れた。

声を上げて、いつまでも泣いていた。

 僕の体が荼毘にふされる時、

彼女は取り乱し、

遺骨にさえ触ることができなかった。

彼女は来る日も来る日も

ひとり泣き続けていた。

 ここにいる笑顔を彼女に返えそう。

簡単なこと。手を離すだけ―――。

 僕はもう君を守ってあげることも、

話しかけることすらできはしない。

けれど、ずっといる。ずっと君の傍にいるから、

僕にために泣いたりしないで。

君の笑顔が僕の救いだから―――。

 彼女の笑顔に僕の想いを重ね、

僕は握り締めていた手をそっと離した。

 ――― さようなら ―――

 僕は消えてしまうけれど、

君の中にいる。

ちっぽけだけれど、想い出として。

いつか忘れられてしまうかもしれないけれど、

遠い過去の記憶として―――。

                       (完)

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コメント

こんな感想失礼かな。「イタイ」です。10年前、アタクシが体験した事を思い出してしまって。
『返さなければ』
今のアタクシにずっしり響きます。

投稿: 羽音 | 2006年2月27日 (月) 00時10分

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