« 小説部、入部希望です。 | トップページ | 謝罪 »

ブログ小説 真夏の冬

 老婆はそっと顔を上げてこちらを向いた。

 「ハッ!」

 いつの間にか庭の中に入ってしまっていた私は

どうすることもできず、ただその場で老婆をみつめた。

老婆は表情も変えず、私を手招きした。

私は何も考えず、それに従った。

 私がガラス越しに立つと

老婆はゆっくり立ち上がり、こちらに向かって歩き始めた。

椅子が無意味に揺れている。

 ――― 暑い ―――

真夏の炎天下に、私は汗をぬぐった。

その瞬間、私の体を冷たいものが流れた。

こんな真夏に、しかも例年になく暑いこの日に、

この家の中はまるで今が真冬であるかのような、

そんな空気を漂わせていた。

 締め切った窓、何枚も敷き詰められた絨毯。

燃えさかる暖炉―――

そして机の上には、雪山にしか咲かないはずの花が、

生き生きと咲いているではないか。

 ――― ばかな ―――

 私は目を疑った。と同時に恐ろしくなった。

気か付くと老婆はもう目の前まで来て、

窓ガラスをあけようとしている。老婆は―――

 ――― 老婆じゃない!! ―――

 よく見ると目の前の女は老婆ではなく、

まだ24・5歳の女性だった。

 青白い顔。

どこを見ているのか分からない虚ろな眼。

痩せこけた体。

そして、雪にまみれた長い髪―――

 ――― 雪? ―――

 考えるまもなく目の前の窓ガラスが、

彼女によって開かれた。

 「ワァッ!!」

 それは一瞬の出来事だった。

突然の暴風と共に雪が、

まるで吹雪のように私に吹き付けた。

目も開けていられないほど凄まじかった。

 気が付くと風も雪もやみ、

あたりは一面の雪景色と化していた。

私には、なにがなんだか分からなかった。

 「ハックショェン!!」

 つい先ほどまでの真夏日が、いきなり真冬になったのだからたまらない。あまりの寒さに恐怖心どころではなくなっていた。

 まわりを見ても、誰も ――― 何もない。

 ――― 一体ここは? ―――

 その時、どこからか声が聞こえた。

 「誰だ!!」

 私は周りを見渡した。――― 誰もいない。寒さに凍え震える指先に息を吹きかけ顔を上げると、そこには若い女性が立っていた。

「!?」

彼女はそっとコートを差し出してくれた。私はコートを奪い取るように手にすると、あわてて羽織った。冷え切った体が急に温まることはなかったが、コートに包まれたことで、安堵感を覚えた。そこでふと思い出した。老婆のような女性。別世界の部屋。真夏に来た突然の冬。この目の前に不意に現れた女性は―――。

「さっきの―――」

知らず知らず声を出していた。

「そう、あれは私。」

そう切り出すと、はらはらと雪が舞いだした。彼女は悲しく微笑んだ。

 「寒くて ――― 寒くて ――― いくら火を焚いても温まりもしない。何か食べようにも食べれない。寝ようにも眠れない。外にも出れない。――― 寂しい ――― 眠りたい  ――― 」

 私はもう寒さを感じなくなっていた。

 ――― 何をいっているんだ? ―――

 理由もわからないまま、次第に気も遠くなっていった。

寒い。

眠りたい。

彼女の声も、次第に遠くなる。しかし、消えはしなかった。

 ――― 私はここで死んだ。屋根の下敷きとなり死んだ。そして春を見ることもなく、川の中へと沈んでしまった。もう5年も前の出来事。私はもう疲れた。眠りたい。だからお願い、この花をその川へ流して ――― 。そうすれば私も静かに眠れる ―――

 そこで私は夢から醒めた。途中、川のせせらぎを聞いているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 「夢か ――― 」

 私は再び歩き始めた。

 その時、ポケットの中からあの花が落ちて、川の流れにのったことも知らないで ――― 。

                  おわり 

**********************

ブログ小説 目次へ GO!

http://runtarou1968.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_d3ec_1.html

|

« 小説部、入部希望です。 | トップページ | 謝罪 »

コメント

ただ者ならぬruntarou氏。また、新たに始めましたね♪これは、短編予定っすか?ごめんね~。今、ここに来て前の記事とか読んでたの。なんだかなぁ~って、思えちゃうコメと同時くらいにアタクシちょうど見てて、人のコメ見るつもりじゃなかったんだけど、見てしまいました。
考え方は人それぞれ!!!でも、ポルノ好きって気持ちはきっとみんな同じ。前へ、行きましょう♪

投稿: 羽音 | 2006年2月23日 (木) 14時30分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/26992/803366

この記事へのトラックバック一覧です: ブログ小説 真夏の冬:

« 小説部、入部希望です。 | トップページ | 謝罪 »